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日記と随想

大人計画『キレイ~神様と待ち合わせした女~』(2014)感想

csで大人計画『キレイ』再々演を視聴。

劇作家・演出家 松尾スズキのライフワーク的なオリジナルミュージカル。

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今までに初演、再演、再再々演3バージョンを観て、これで全バージョン コンプ。

 

曲や演出はこの公演からバージョンアップ。
芝居のテンポと緩急は全バージョンで一番いいし、カオスでアナーキーな世界観も一番色濃く出ている。

 

 

主演の多部未華子さん、本当に芝居がうまい人だ。技術もあるが、役を違和感なく生きられる。

『農業少女』を観た時も感じたが、意外に松尾スズキ演出と相性がいい。

 

 

彼女のケガレ役が、個人的には一番、ケガレだと感じた。

 

この作品の初演を観て衝撃を受け、再演、再再々演と観続けてきたが、はじめて、ケガレは犠牲者なんかじゃなく狂っているのだと思った。生きるために、自ら狂うことを選択したのだ。

 

多部さんが見せる狂気、生き意地の悪さ、生への執着にゾクゾクした。

あんな恐ろしい多部さんは、今まで映像では見たことがなかった。俳優の新たな顔を引き出すのも、観客を目の前に演じる舞台の醍醐味だ。

 

ケガレだけでなく、尾美としのりさんのハリコナも、全バージョンの中で1番軽薄で狂っていて好きだし、マジシャンの田辺誠一さんは、弱弱でびびり倒して、それでも狂わずにはいられない、人間の哀愁さえ漂う。

 

 

どうしてこの作品に惹かれ続けてきたのか、今回のバージョンを観て、やっとハッキリと分かった。

 

縦横無尽に舞台上で狂う役者陣は、松尾スズキの描く狂気の世界を何倍にも増幅させ、混沌として、騒がしく、暗い世界の渦の中に観客を引きずりこむ。

 

そしてその中で、穢れても、狂っても、生き恥を晒しても、生き意地悪く生きていく、人間の強さと生への渇望、そんなどうしようもない自分への赦しを体感すると、とてつもないカタルシスを感じるのだ。

 

堕ちて、穢れて、傷ついて、どうしようもなさを抱えても、そのありのままの姿こそが人間だ。

そう思うと、終幕後、ほんのりと、生きる勇気が湧いてくる。